雪室宿 |
越後妻有アートトリエンナーレ2009 新潟県 十日町市 松之山 天水山 37°2'23.53"N, 138°33'50.57"E |
7, 26 - 9, 15 |
作品は天水山の標高800m程の中腹にある高原地帯、大厳寺高原の雪室跡を利用して制作された。雪が残りやすい北東を向く斜面の沢のふもとに位置する跡地には強靭な雪室の構造が残されており、かつては雪の中に野菜や米、酒を貯蔵したり、雪を切り出して各家庭の貯蔵庫や医療用に利用していた。大厳寺高原ではその慣習は祭りの舞台へと姿を変え、お盆に帰郷する地元の人々に親しまれる行事として保存されている。
私は現地で雪室に寝泊まりした経験から、祭りで用意する雪を例年の二倍に積み上げ、雪室の構造を伝う地熱や気温 そして訪れる人々の体温で日々少しずつ姿を変える宿を発想した。雪は自重や自らの熱で氷の層をはしらせ構造化し、室内の様々な温度が編集されて鬩ぎあいながら融解してゆく。室は昨日までそこには無かった空間を予約する宿として会期中公開された。
高さ15mを超える雪塊に巨大な断熱シートをかける作業や、構造までの雪を手作業で掘削する作業は多くの地元の方々の協力のもとに実現した。彼らの農作業で培われた恊働の力と、豪雪の雪原を航海してきた知恵の恩恵によって歩みを進めたこのプロジェクトは雪に寄添って生きる為の民俗知を随所に湛えている。
鑑賞者の感想で特に多かったのは'内部に入って出ただけなのに、全く違う場所に出てきたようだ。’というものであった。わたしは中に入りすぎていてその感覚ははきとしなかったが、季節や天候が移送された空間を一息に経由してみると、私たちが時間と捉えていたものはあらゆるものの移動の摩擦の共通の印象だったのかもしれないとふと感じる。季節を束ね、時間を一気につかんでしまう様なことも暦の中に生きているという旅の感覚に、あるいは必要な先人の知恵なのかもしれない。